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東京地方裁判所 平成3年(ワ)10438号 判決 1992年 7月 29日

原告 日本ジョイントベンチャー株式会社

右代表者代表取締役 南文雅貴

右訴訟代理人弁護士 岡田正美

右訴訟復代理人弁護士 齋藤一彦

被告 佐藤鈴子

右訴訟代理人弁護士 鈴木堯博

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

(第一、第二省略)

第三争点に対する判断

一  争点1(本件根保証契約は既存の債務を含む趣旨か否か)について

1  本件根保証約定書中の第三条には、既存の債務を含む旨の次の文言が、不動文字であらかじめ印刷されている。すなわち、「連帯保証人は、主債務者が貴社との手形・小切手貸付、手形・小切手割引、証書貸付、債務保証、その他一切の取引によって現在及び将来負担する債務のうち右記根保証の範囲欄記載の債務(すなわち、本件では五〇〇〇万円)を限度として、各条項を承認のうえ主債務者と連帯して債務履行の責を負います。」と。

2  しかし、他方、≪証拠省略≫によれば、次の事実が認められる。

(一)  被告は、大正八年生まれの女性で、身体の不自由な弟と二人で暮らしている。長らく東京都渋谷区役所に勤務し戸籍・福祉関係の仕事に従事していたが、退職後は無職で、資産といえるものは原告に根抵当権を設定した土地建物のみであり、同所に居住している。

(二)  被告は、以前喜久子が所有する貸家に入居していた関係で喜久子と面識があったものの、特に親交があったという程ではなく、訴外会社の経営とは全く無関係で、同社と原告との取引関係については何の知識もなかった。

(三)  被告は、平成二年暮れころ、喜久子から、眞喜子が出店をする場所を借りるための保証人になってほしいとの依頼を受け、平成三年一月一一日、前記のとおり、喜久子と茂木の訪問を受けた。

喜久子は、その場で、被告に対し、眞喜子が代表者をする訴外会社がじゅうたんを輸入する仕事を計画しているとして、持参したカタログを示して輸入予定のじゅうたんの説明をし、場所を借りるための保証人ではなく、右輸入のための資金を借り入れる保証人となるよう求めた。被告は、話が違うと思ったものの、他に保証会社が第一順位の保証人となる旨の説明を受けたことから、その場で右借入れのための保証人となることを承諾した。

茂木は、その際、自己が貸主原告の従業員であって、原告が訴外会社へ既に一億円以上の貸付をしていること及び被告の根保証は既存の債務にも及ぶことの説明を一切しなかった。

また、茂木は、本件根保証約定書の第三条を読み上げたり同条の趣旨を説明したりすることをせず、被告が右契約書を検討するための時間的ゆとりを与えることもせず、右書面の写しを被告にその場で交付することもしなかった。

(四)  眞喜子は、平成二年一一月ないし一二月ころ、原告に対し、訴外会社のため追加融資をするよう求めた。その際、茂木は、追加貸付の条件として、資力のある保証人を追加するよう要請した。そこで、眞喜子は、追加保証人を探し、茂木から、被告が保証人として適任であるとの了解を取り付け、本件保証を依頼したという経緯がある。

(五)  被告が本件根保証約定書等の書面に署名押印した当時、それらの書面の主債務者欄には訴外会社の署名押印はなく、原告は、その後も訴外会社に対し、右各書面に署名押印するよう求めたことはなかった。訴外会社は、折からの湾岸戦争の勃発により、予定していたペルシヤじゅうたんの輸入を断念したため、原告に追加融資を申し込むことをしなかった。

眞喜子、喜久子及び被告は、訴外会社が追加貸付を受けなかったことから、被告の保証債務は発生しないと考えていた。

3  右2に認定した事実に照らすと、本件根保証契約は訴外会社の将来の債務を担保する趣旨で締結されたというべきであり、右1の事実によっても、既存債務を含むと認めることはできない。

二  結論

したがって、その余の争点につき判断するまでもなく、原告の請求は理由がない。

(裁判官 畑中芳子)

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